現在の学者と、百年後の学者


 百年後の未来から学者がやってきて、現在の学者のいる同じ部屋に偶然隣り合わせた。

未来の学者は、電磁波に感度があるめがねをかけている。あたりを見回すと、犯罪者の電波がその部屋にきた。これが、前世紀に、地球を襲った巨大犯罪電波犯罪の現場か。未来学者は思った。

未来学者「電波ビームが、この部屋にきていますね。人体干渉型ですね。犯罪が行われています。百年前の学者さん、わかりますか?」

現在の学者は、目の前にいる変わった眼鏡をかけた人物が未来からきた学者であることを理解していなかった。百年前の学者と呼ばれたことを、侮辱されたと感じた。

現在の学者「電波。なんですか。それ。多分、ゼロ場でしょうが。そんなものは、何も存在しないからゼロ場というのですよ。君は、きちがいかな。」

未来学者は、非礼な言葉をかけられたが、現在の学者に怒る気にもならなかった。それに、目の前に実験器具もなかったので、あえて説明をしようと思わなかった。が、その狭い科学知識には、うんざりした。これが、無知な前代の科学の偏見というものだ。それを間近に体験できたことを、喜び笑った。

 未来学者「過去の学者さん、電波をご存知ない?理論的にゼロ、ということで、何もないとみなすのが、古典電磁気学ですが、それが正しいと思っている。」

と、そのあとは、笑い転げて話す気にはならない。彼の言葉は、強烈な皮肉だったのである。

 未来学者は、過去の学者をじっとにらみつけた。そして精神を分析した。

 過去の学者。知的レベル6学者の平均クラス。世俗権威に従うタイプ。理論的想像力低し。判定。既存の科学の常識に従うタイプであり、社会で公認されない限り、新しい理論を全く受け付けないタイプ。結論、よって新しい理論を教えるのは無駄である。

 未来学者「過去の学者さん、科学雑誌に書いてあることしか信じないタイプですね。」

と、言ってから、笑い転げる。なんて古典的で発展性のない人間だろう。先駆性のかけらもない。よって、新しい理論を教育する必要もない。

未来学者「まさか、神が存在しないと思っているのではないですか?」

過去の学者「そんなものいるかいないかはわからない。見えないし、見たこともない。世間ではいるという人もいるが。」

 未来学者、こりゃだめだという顔をする。過去の学者の世界観は実に、狭かった。想像力もない。世俗の動きを追いかけるのに精一杯という顔をしている。人をキチガイ呼ばわりして、人権を貶めるのも平気なのは、医学的にも無知なことに原因があるようだ。しかし、どの程度の理解があるか、知りたくなった。

未来学者「ところで、精神の疾患について、健常の人とは、なんでしょう?」

過去の学者「キチガイでない人のことだよ。」ただそれだけを言って、上手な返事をしたと思っている。

 未来学者。これは、まるっきり、精神や心理のことに無知だな、我流もいいところだと思うが、すでに、この過去の学者に対する関心を失った。あえて説明するのも面倒なので、

 未来学者「学者さん、地球が宇宙の中心という説が、ガリレオ以前にはありましたね。それを信じていた人は、学者さんの言葉ではなんというのですか。」

 過去の学者「そいつらは、馬鹿だ。しかし、現代の科学者は、そんな馬鹿ではないぞ。」

未来学者は、彼にとっては過去の学者のこの逆説に満ちた発言に、「そうかな?」と思った。

 未来学者は、実に無駄な時間を過ごしたと思った。前世紀の学者の偏見を間近に体験しても、楽しくはないと思った。そして、すぐにその部屋を後にした。

01-10-16 03-8-22 校正 2015/4/20

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