電波機器カンニング学習塾


これは電波によるカンニングを警告するための物語です。

 その学習塾は、とりたてて人気講師がいるわけではなかった。教材もオリジナルではなく、市販の教材を参考にした平凡なプリントだった。が、狭い教室には、百人もの高校生がひしめいていた。なぜか。それは、その学習塾は99年のセンター試験で脅威的な実績をあげたからである。塾生の平均点は、1000点満点中、700点という高さ。それを支えるのは、一部の飛びぬけた成績優秀者の存在だった。上位八人の平均点は、960点だった。しかも、その成績優秀者の大半は半年前の模擬試験では偏差値が50前後だった。彼らは東大、慶応大など名だたる有名国立私立大学に入った。その短期間で成績を上げた奇跡を聞きつけた高校生が、その学習塾にわんさか集まったのである。

 その塾には、進路相談というものがあり、生徒の父母が呼ばれる。その時に、進路相談会のプリントが配布される。そのプリントには、「必ず合格させたい旨の相談にも応じます。」と奇妙な一文が添えてあった。

 9月頃、塾生の親子面談があり、一人の高校生の親娘が呼ばれた。

 塾の講師 山本「お宅の娘さんは、偏差値が41ですね。このままでは、私立女子大が精一杯でしょう。公立は難しいですね。」

 母「そうですか。なんとかなりませんか。どうしても、あのお嬢様学校に入学させたいのですが。」

 娘「そんなこと言っても、無理じゃん。私がいけるはずないよ。」

 講師山本「あの女子大ですか。あそこは、偏差値が53ないと・・・」

 娘「ほらっ、高望みしすぎだよ。私は、どこでもいいから大学に入りたいの。」

 母「何言ってるのよ。ここは奇跡の学習塾よ。だから、万が一の望みをかけて、ここに通わせているのに。まあ、月謝は安いがねぇ。」

 講師「どうしても、あの女子大をお望みですか。斉藤様。私どもの学習塾では、去年、あなた様と似たようなことをおっしゃった生徒がいました。9月時点の偏差値が45で、偏差値60の有名国立大学に入りたいと。が、彼は、センター試験で、なんと1000点満点中、850点をとり、見事、第一志望に合格することができました。」

 母「娘に、そんな奇跡みたいなことを期待するのは無理だわ。」

 娘「お母さんあきらめようよ。私は、そんなに賢くないよ。大学にいけるだけで十分だよ。」

 講師山本「しかし・・・もし、お望みなら奇跡を実現させるように私たちが共に入試に立ち向かうこともできないわけではないのですが。」

 母「どういうことですか。」

 講師、急に周囲の気配を気にして、小声になり「娘さんの偏差値を20あげることもできない相談ではないのですが。」

 母は、講師の怪しげな態度を察して、とうとうきたかと「私はそれを望んでいます。どうすればそんなことが可能なのですか。」

 講師山本「その前に、これはけっして外には漏らさないと約束できますか。」

 母「はい。娘の将来がかかっていますから、けっして誰にもしゃべりません。」

 講師「約束できますか、斉藤さん。ここに、誰にもしゃべらないという書面にサインをしてください。」

 母は書面にサインをする。娘は、大事なところなので、黙ってそれをみている。

講師山本「では。いいでしょう。費用は、数百万円もかかりません。ご存知の通り、裏口入学は、費用も高く、その成功率はきわめて低いのが現実です。私たちの行うのは、そんな一部の金持ちしかできないものではありません。安くてすみます。要はカンニングです。けっしてばれません。」

 母「カンニングですか。」がっかりしたような顔をする。娘はカンニングをいつもしているが、成績は一向にあがらなかったので。

 講師山本「心配いりません。今までのカンニングは、他人の答案用紙を覗いて答えを見て、それを書き写す。つまり、視力が、カンニングの成否をわけていたのです。でもカンニングペーパーがあるからみつかります。他人の答案用紙をのぞきこむからばれます。が、娘さんは、視力があまりよくありませんね。せでも、私どもの提供するカンニングは、カンニングペーパーもいりませんし、視力が悪い人も大丈夫です。」

 母は安心したよう顔をする。娘はカンニングペーパーを使ったのが、最近高校でばれた。ドジな子だからカンニングは無理だと思っていたからだ。

 講師山本「耳が聞こえるだけで、よいのです。だから何もいらず、怪しがられるそぶりもしないから、絶対にばれないのです。」

 母「娘は、耳がよいことだけが唯一の自慢ですの。」

 講師「電波機器というものをご存知でしょうか。それで、外から、耳に電波を送り、音声を届けます。難しいですか。無線で、問題の答えを教えるのですよ。直接耳に。」

 母「でも、イヤホンなんかつけたら、怪しいと思われるでしょう。」

 講師山本「私の説明をもう一度よくきいてください。耳に直接声を送るといったでしょう。イヤホンは使いません。通信機で、内耳に直接、声を送り、問題の答えを教えます。それを聞いて、答案を書いてゆくだけです。去年、この方法を誰と、言えないが、行いましたが、平均点は960点でした。全員同じ点数です。まあ、三人は、十点低かったのですが。」

 母、わらにもすがらんばかりに「是非、それを娘にもさせてください。」

 講師山本「費用は、30万円です。高くない金額だと思いますが。」

 母親、躊躇する。

 講師山本「なにしろ、これは、専門的に雇った優秀な教師が、当日、実際に、センター入試を受けにゆきます。彼らが、すばやく問題を解いて、答えを本部に持ち帰ります。彼らに、一人三十万円を払わなくてはなりません。一つの試験に五人でかけます。150万円かかります。そして、その答えを大型無線機で、放送します。その大型無線機の使用代。それを、本部から塾生に渡した電波無線器に送ります。そして、その無線機こそが、塾生だけの耳にこっそり聞こえるようにできる奇跡の道具なのです。そうやって、周囲には音は一つも漏れないのですが、あなたの娘さんだけがラジオから答えを聞くことができます。その各人に渡す電波機器の使用代。そういうシステムです。それと、私どもの人件費です。私たちも危ない橋をわたるのですから、相応の額を払っていただかないといけません。去年は、一人100万円払いました。ですが、今年は申し込み数が多いので、お得になったのです。このカンニングは、証拠が残りません。絶対に大丈夫です。ばれることはありません。どうでしょうか。」

 長い説明だ。怪しい話は長い話にこそ嘘が混じっていることが多い。母親はわからないから、

 母「本当に大丈夫ですか。もしみつかったら、私の娘の一生は台無しです。」

 講師山本「まったく心配入りません。電波だから証拠はけっしてみつかりません。もし、証拠をみつけようとしても、それには、電波検出器をもっていなくてはなりませんが、そんなものをもっている試験官なんていません(笑う)。だから、大丈夫です。私達が保証します。」

 母「後でばれたりはしないでしょうか。」

講師山本は笑って「カンニングは、現場を押さえなくてはいけないのです。試験中にばれなかったら、もう一生安全です。で、三十万円を用意できるでしょうか。大学にたった三十万円で入学できるのですよ。これほど安いものはないでしょう。」

 母、「三十万円ですか。」

 講師山本「成功すれば、成功報酬として、さらに三十万円です。が、失敗したら、払わなくてもかまいません。しかし前年度、実績では失敗した生徒は一人もいなかったですが。いかがでしょうか。」

 母「私ではきめかねるので、父と相談します。待っていただけますか。」

 講師山本「ゆっくりと慎重にお考えください。娘を大学に進ませる道は、これしかないのですが、何も大学に進学することだけが、人生の幸福とは限りません。しかし、くれぐれも他言無用です。」

 母「はいわかりました。では、私どもはこれで。」

 講師山本「では、お気をつけて。」

 相談室を出て、帰りの道すがら。

 娘「カンニングなんて。やばいじゃん。」

 母「あなたをこの塾に通わせたのは何のためと思っているの。この塾には奇跡があるのよ。だから、高い月謝を払って。こんなおんぼろ塾に通わせたのじゃないの。あなた、それにここに通っても、ぜんぜん成績をあげてないじゃないの。それをずっと我慢していたのよ。」

 娘「そうだけど、もしばれたらどうすんの。カンニングばれたら、私の人生終わりじゃん。」

 母「そんなことないよ。去年の大学にとてもいい成績で入った生徒は、まだ大学生しているよ。講師の先生も絶対にばれないとおっしゃっているし。」

 娘「私そんなことまでして大学に入りたくないよ。」

 母「あなた、△△ちゃんと、同じ大学に入りたくないの。」

 娘「それは、同じ大学に行きたいよ。でも、私が960点もとったら、絶対に怪しいってばれるよ。」

 母「何言っているよ。適当に、間違えて、点数を下げたらいいじゃないの。点数を下げるのは、あなた得意でしょう。そしたら、特に目立つこともないよ。」

 娘、突然、希望のまなざしになった。

 三日後、電話して、母は、塾に、三十万円を払いにゆく。

 センター入試は、一月に開始された。前年の十二月から、電波カンニングの特訓が始まった。しかし、お互い誰がそれをしているかは、わからなかった。講師が各家庭を訪問して、電波機器の使い方を説明して、練習させた。

 ピンポーンと呼び鈴が鳴る。

 娘が大きな声で

 「お母さん来たよ。」

 「はいただいま行きます。」

 母親と娘が玄関のドアを開けて講師山本を迎える。

 講師山本「こんにちは 今日、伺ったのは進路相談のためです。」

 母親「はい。どうぞお入りください。」

 講師山本、リビングに入ると、そこには娘がいた。親娘が揃った。いきなり電波機器をかばんから出して、「これが、新開発の音声ラジオです。一人の耳だけにしか聞こえない電波を出します。」

 娘「へぇ。」

 講師「早速試してみましょう。すごいですよ。親御さんだけに聞こえるようにしますね。」

 と、電波機器を調節する。

 講師山本「スイッチを入れましたよ。何が聞こえますか。」

 母親「オハヨウゴザイマス。キノウテツヤデス。」古いラジオのようなノイズが多い音が聞こえてくる。

 母親は、周囲を見渡して、

 「娘。お前に、聞こえる?」

娘「いいえ。なんにも。」

母親「電子音っぽい声で、ニュース番組のあいさつが聞こえるわ。耳の中で響いているみたい。」

 講師山本「成功みたいですね。今は、母親さんにしか聞くことができません。他の人には、何も聞こえません。娘さんそうですね。何も聞こえませんね。

娘「私には何も聞こえないよ。」

講師山本 「次は、娘さんの番です。」

 と電波機器を娘に向けて、調節する。

 母親 娘に向かって、「本当に、聞こえなかったの?」

 娘「なんにも。」

 講師「では、娘さんの番です。どうですか。」

 娘「あっ、聞こえる聞こえる。オハヨウゴザイマス、キノウテツヤです。聞こえるわ。すごいわ。お母さん、聞こえる?」

母親「聞こえないわよ。へぇ。すごいものができたんですね。」

講師山本「これを今日から、貸しますから、練習しておくようにしてください。けっして、他人にはそれを見せないでください。」

母親「はい。」

 講師山本は帰っていった。

 娘「これがあれば、試験は、楽勝よ。」

 入試当日、入試会場にはいち早く塾の関係者がきて、カンニングする生徒の位置を確かめていた。カンニングする生徒の教室はばらばらだった。その各々の教室の座席に、まっすぐに放送用の電波を出す調整のためだった。

 娘は友達と試験会場の大学の正門前にやってきた。そこで、塾の先生にあいさつをした。そして大学に入った。娘は有名大学に入るのはこれが最初で最後になるかもしれないと思った。すでに高校生がたくさんきていた。その受験生の中には、謎の中年男性もまじっていた。正門の隅には注意書きが書いてあった。

 構内で以下の行動を禁じます。

勝手に部外者が入ってくること。

拡声器の使用。

 ヘルメット、覆面の着用。

 大学のものを破壊しないでください。

 学生部。

 娘はこの大学は、危ないところだなと思った。

そして、門に入ると、縦3.5メートル、横約4メートルの大きな白い看板に

 「日、米、欧の帝のアフガン侵略を断固許さない。

日本共産党の「テロ撲滅」宣言を粉砕する。

全波連」

 と、緑と赤い文字でけばけばしく書かれてあった。大学の構内は夢にみたようなきれいなキャンパスではなく、娘は憧れの大学生活の現実を感じた。

 娘は、三号館の三階に座った。試験時間までは、30分あった。しかし、もう教室には半分以上も高校生がきて、自分の席にすわって呼吸を整えていた。娘は運良く窓側だった。窓側だと、電波の感受性がよくなり、声がよりはっきりと聞こえると説明を受けていた。そして、友達とはしゃべらなかった。試験が始まる前にこっそりかばんの中に隠していた電波機器のスイッチを入れた。すると、こんな声が聞こえてきた。

「教室に入ったら、すぐに電波の受信テストをしてください。もし聞き取りにくかったら、すぐにもより塾講師に申し出てください。取り替えます。」

 耳の中だけに響いた。この声は、娘以外の誰も聞き取ることはできない。幸い通信の感度はよく、はっきりと聞き取れた。その教室には、ほかに同じ塾に通っているA子さんがいたが、彼女は静かに机に座っているだけだった。彼女も私と同じようにカンニングしているのかしら。娘はと思った。

 試験管がやってきて、試験が始まった。それまでずっと通信は続いていて、録音テープの声が語りかけてきた。人間が話しているが、電子音のように聞こえた。教室は静かになった。全員が試験問題に集中している。娘は、最初の三十分は、何も答えが聞こえてこないから。適当に試験問題をといているふりをしていた。そして、とうとうその時がきた。試験化意志から30分がたった。耳に聞こえてくる音に神経を集中した。

「 ピンポーン。今から答えを言います。第一問の1の答えは、Cです。第一問の1の答えは、Cです。2番目の答えは、@です。二番目の答えは@です。三番目の答えは・・・」

娘は内心やったーと思った。本当に聞こえた。問題はない。娘はその声に導かれて、問題用紙の答えをどんどん埋めていった。そして全部答案を埋め尽くして、30分ほどで、放送は終わった。

塾の講師が直接受験して、問題を解いた。一教科に五人かけるが、問題は分散してとくことで、スピード化を図っていた。さらに、一つの問題に三人があたるようになっていて、解答ミスを防いた。もちろん、わからない場合は、カンニング本部に問題に帰ってから、答えをみつけることもあった。そうやって、一問も間違わないようにしていた。そして、20分ですばやく問題の回答を終えて、試験会場から出て、外で待機している放送車に駆け込んだ。そして、答えを塾の関係者全員で確認してから放送する。問題の答えの放送は二度ある。聞き取りにくかったりしたときのためだ。

 娘はラジオを聞くことになれていたが、これほどラジオに神経を集中したことはなかった。そのラジオの声が自分の人生を左右するからだ。そして、これほど緊張した試験もなかった。聞こえた通りに回答を埋めてゆく。

 試験官は教室の前の机で、ぼんやりとしていた。こちらの動きに何も気づいていないようだった。

 娘は、どんどん答えを書いて、全部答えを書いた。そして、はっと気づいて自分の得点を下げるように最初の6問の答えを全部消した。彼女は間違いを分散させる知恵もなかった。

 最初の試験は、それで終わった。娘は、時間がきてチャイムがなり、答案用紙を返却した。娘にとって、これほど答案用紙を埋めたことは、人生最初で最後だった。

 試験が終わると、娘の友達は、くちぐちに、感想を言いあった。

友達1「私は、だめだわア。あーあ。」

友達2「あの問題まちがえたかなあ。」

娘は、だまってきいていたが、いつもの馬鹿なふりをしなくてはならないので

「ぜんぜんできなかったよお。」

でも、娘の試験の様子を見ていた友達は、

「△△子。そんなこといって、すらすら問題を埋めていたじゃん。」

 娘、びくっとして。「ときとうに、埋めただけよ。」

 友達「どうして、最後に、消しゴムで答えを消したの?あれ、ほかの人の答えと同じだったよ。」

 娘、またびくっとして

「えっ、わからないから消したんだけど。えっ答えが合っていたの。じゃあ、消さなければよかった。」

と、しらじらしく残念がる。友達に見られるから、今度は、もっと答えを分散して消そうと思う。

 二度目の試験が始まった。また、30分すると、娘の耳だけに答えが聞こえてきた。周囲の学生は黙々と試験問題を解いている。

「今から、答えを言います。第一問の答えは、Bです。第一問の答えはBです。第二問の答えは、Cです。第二問の答えはCです。と」

と、続いてゆく。

 その日、娘がこれほど緊張した日はなかった。そして、充実した日もなかった。どっと疲れが出てきた。でも、うれしかった。何よりも、試験中に、カンニングがばれなかったのだ。カンニングは現場で押さえられなくては、大丈夫だ。これで、もうけっしてカンニングが未来永劫ばれることはない。娘は、勝利を確信した。

友達は、みな悔しがっていたが、娘だけは、何か内に充満した喜びがあった。明日も試験だ。またがんばろう。

 正門を出ると、塾の講師に出会った。

講師山本「がんばったか」

と、声をかけられた。

娘「はい。よくできました。」

 それは成功でしたという合図だった。

 翌日の試験も、娘は一人だけ聞こえる無線の声を頼りに、答案用紙を埋めていった。娘は、はじめて、試験というものは、これほど楽しいものだということを感じた。

 試験会場からの帰り際、友達は元気をなくしていたのに、娘だけは、喜びの顔を隠せないでいた。試験会場でばれなかったら、もうけっして危なくない。完全犯罪の達成。カンニングは、大成功だ。帰ってくる試験の点数が待ち遠しくなった。

 家に帰ると、母に報告した。

娘「お母さん。私がんばったよ。すごくいい点をとれたと思う。」

 母「おめでとう。私、子作りに失敗したと思ったの。でも、あなたが、こんなに試験でがんばっているのをはじめてみたわ。それだけでも、うれしいわ。」

 さて、センター入試は、結果が、個人に報告されることになっていた。以前は、それがなかったが、それでは、正確な結果がわからないので、正しく大学選びをすることができないと、世論の反発が強かったので、通知するようになったのである。日本の受験制度の弊害は、ひとつそれで改善された。偏差値は復活した。なぜなら、相対的な評価なしに、大学を選ぶことはできないという現実に、多くの人が気づいたからである。

 高校経由で、センター入試結果が送られるのではなく、個人宛に郵送された。なぜなら、試験というのは個人の選択の問題であり、それを学校が過度に管理して、個人の進路の選択が妨害されることをなくすためであった。

 二週間後、試験本部から、入試結果が送られた。

その封筒を心待ちにしていた母は、娘が帰ってくるまで、それを開けなかった。今日は、試験結果が郵送される日ということで、センター入試受験者の帰宅が早かった。

 娘は帰宅途中に、携帯電話をかけた。

娘「お母さん、封筒届いている?」

母「届いているよ。まだ開けてないわよ。早く帰ってきておいで。」

 娘はかけあしで帰ってきた。胸がどきどきした。おかあさん開けてとはいわなかった。自分の結果を自分で知ることが、大切だった。人生は自分のものだからだ。

 娘「ただいま。封筒どこ?」

 母「ここよ。はいどうぞ。」

 娘は封筒を開けた。そこには、

860点の文字が。

娘「やったー。860点よ。すごいわ。お母さんも見る?」

母、試験結果の書いた紙を受け取って「860点?すごいわ。やったね。」

 ともに、抱き合って、喜んだ。

 落ち着いてから、

娘「あまりに、得点高すぎない?カンニングがばれるかもしれないわ。」

母「そんなことはないわ。カンニングは試験中でないと、ばれないのよ。試験が終わってから、あとで、カンニングだったなんて、追及することはできないの。」母は、講師に教えられたことを繰り返した。落ち着いていた。

 娘、安心したように

娘「友達になんていおうかな。偶然って言おう。」

 母は、その翌日に、お金をおろして成功報酬として、三十万円を塾が指定した口座に振り込んだ。カンニング費用は計六十万円だった。

 娘は、高い得点をとったので二次試験の成績は散々だったが一次試験の出来がよかったおかげで、目当てよりランクの上の国立大学に入ることができた。

 また来年度の塾のちらしには、こう書かれている。

「当、塾のセンター入試の平均得点は、760点。上位者の平均得点は、960点。東京大学、京都大学多数に合格。」

その塾は、去年に引き続き、今年も一躍、有名私塾に匹敵する実績を残した。今年の夏も、塾の狭い教室の中には、噂をききつけたたくさんの学生たちであふれかえった。その地域では、奇跡の学習塾と呼ばれるようになった。

 01-10-9 03-8-22 校正 2015/4/20

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