電波狩り(デンパガリ) 短編小説


電波バスターズ

 戦後初期の赤狩りは、共産主義者を公職から追放する運動であり、思想信条で人を差別する人権侵害だった。赤狩りは人権弾圧だ。が、デンパガリは正義だ。電波犯罪者を捕まえ、被害者を電波から助ける人権救済行為だからだ。刑法にも犯罪を見てみぬふりをして通報しないのは犯人隠匿の罪である。電波狩りは、国民としての義務、犯罪の通報を市民の意志で、積極的に行い、犯罪者から国民を守る使命感に燃えて、電波犯罪者を見つけ出し、日本の平和を守る合法的行為であった。

りょう「今日もデンパガリしようぜ。」

けんじ「いいよ。狩りに行こうよ。」

りょう「俺ら、もう32人挙げたからよ。警察署長賞もらえるかもな。」

けんじ「金だよ。電波どもを、被害者救済団体にもっていけば、一人三万円くれるからな。」

りょう「あそこは、被害者補償の手数料で儲けるあこぎな取立て屋だろう。」

けんじ「人権派弁護士と呼びたまえ。失礼だよ。でも、小遣い稼ぎになるだろう。半月で、三十万だよ。」

りょう「俺は、被害者を電波から守る、という正義感に燃えているぞ。お金なんかほしくてやっているんじゃないよ。」

けんじ「俺は、カネだ。」

 デンパバスターズ(電波犯罪者を捕まえるグループの名)は、まだデンパガリが行われていない郊外に来た。

けんじ「家がたくさんあるなあ。一軒一軒が、札束に見えるぜ。」

りょう「どこから調べましょうか。」

と電波探知機を取り出して、住宅のあるほうに向ける。

けんじ「おっ、反応が大きい。何本か出ているぞ。ここに決まりだ。」

住宅街に入る。電波探知機を向けながら、

けんじ「いる。いる。電波の群れだよ。」

りょう「田舎のくせに、アカの組織率が高かったんだな。田舎だからこそか。」

けんじ「はい。パチッ。パチッ。」と、写真を撮る。写真に電波が記録される。

いきなり手持ちのブザーがピーピーと鳴り出した。

りょう「おい、お前、電波やろうに、見つかってんの。ドジだ。」

けんじ「誰だよ。」と探知機を操作してから、振り回す。「あの家か。」

りょう「電波狩りだとばれないようにしろよ。ばれたら、電波を一斉に止められるからな。」

けんじ「わかっている。わかっている。無視するよ。許さないから、ほれっ、お前は、逃げられないように写真をいっぱいとってやるよ。」

りょう「おっと、あの家に赤い旗がはためいているぜ。獲物だ。」

けんじ「おいおい、赤狩りはご法度だよ。おれたちのやっているのは電波狩りだ。間違えるなよ。」

りょう「すまない。つい。」

けんじ「正義感が強いのも考えものだな。電波狩りは金なんだよ。」

りょう「やっと一段落だよ。結構多かったな。」

けんじ「しめて、10軒というところか。30万だよ。」

りょう「やったな。次は、三日後に駄目押しに、来ようぜ。」

けんじ「あいつらは、一週間後には、サツがきて、びっくりするだろうな。」

りょう「電波やって、自業自得だよ。」

けんじ「それから、被害者救済団体がやってきて、ねこそぎぶんどられるんだぜ。」

りょう「被害者を痛めつけて、ただですみやしないよ。お天道様と俺は許さない。」

けんじ「俺は金が入ればそれでいいんだ。」

りょう「被害者は助かるし、今日もいいことしたな。」

デンパバスターズの活躍は、まだまだ続く。

被害者救済団体にゆく

けんじ「こんにちは、」

弁護士「おっ君たちか。いいネタあるかな。」

りょう「今日は田舎のやつですが、十件ほど。とっちめてやってよ。」

弁護士「遠いのか。」

けんじ「車で一時間ほど。」

弁護士「出張しなくてはいけないな。まぁいいか。ブツ(証拠品)をまずみせろ。」

けんじ「これですよ。どうです。映りいいでしょう。」

写真を電波解析器にかけると、よく電波の線が浮かび上がる。

弁護士「いい写真だ。これなら、確実だよ。(確実に取立てができる)で、いくらで。

けんじ「待て待て、資産家リストに載っているやつが一人いますよ。資産が二億ってところかな。会社社長です。」

弁護士「これか。五万円出そう。」

けんじ「たったの五万ですか。」

弁護士「一件、一件、手間かかるんだぞ。」

けんじ「どうせ、その情報を倍で他の弁護士に売りつけるくせに。」

弁護士「仕事のない弁護士を助けてあげているんだよ。弁護士稼業も楽じゃないんだ。」と40万円を渡す。

けんじ「こんなにも?」

弁護士「この前のお礼も含まれているんだよ。」

けんじ「ありがとう」

弁護士「もう、俺のところは、(仕事)手一杯だからもういいよ。」

けんじ「もう、仕事ないのか。」

弁護士「いや、川崎のほうの弁護士が、仕事ほしいと言ってたんだがな。」

りょう「川崎ですか。もうあそこは、絨緞爆撃のように、ほとんど狩られているから、残ってないっすよ。」

弁護士「知人の頼みなんだよ。見つけられないのか。」

けんじ「じゃあ、見ますか?」と、川崎の地図を広げて、電波狩りのされた地域は、青く塗られているのを見る。

弁護士「まだ半分は、残っているよ。」

けんじ「うちらも、競争激しいんだよ。もう先に、狩られているかもよ。」

弁護士「俺を助けると思って、」

りょう「仕方ないな。」

弁護士は、早速、被害者宅に電話を入れた。

 「私は電波犯罪の救済機関の者です。お宅は、電波を何年も浴びせられているということを、そちらの地区を調べていた調査員が偶然発見しまして、ご存知でしたか。」

 弁護士は、被害者が被害に沈黙しないで、警察に訴えるように一生懸命にと説いた。被害者救済は無料だった。だから、被害者は訴えた。それから、すぐに被害者補償の依頼を受けて、着手(請求)にとりかかった。

 「私は弁護士○○という者で、被害者の代理人です。あなたは、電波を××さんに浴びせましたね。被害者はこの数年、苦痛を感じてきました。とても強い精神的ショックを受けています。数年間にもわたる被害の補償と、精神的な慰謝料を請求します。」

 「警察に訴えています。もし刑事告訴されたら、あなたは確実に犯罪者です。あなたの夫は仕事を失いますし、退職金もはいらなくなるでしょう。ローンの支払いもあるでしょうし、ここは、示談ですませてはいかがでしょうか。」

 弁護士はハエナワのように、多額な金額を請求して、取り立てた。

 電波犯罪者は、被害者に償うことによって、警察に逮捕されることは免れたが、その分、多額の被害補償を払う羽目に陥った。

 「今日も狩りに行こうぜ。」

 「おっす。」

犯罪者が社会にのさばることは許されない。罪をあばき、被害者を助け、社会の平和と治安を守る正義の味方。電波バスターズの声が、今日も街のどこかで響く。

 日本から狂った電波と被害者の悲痛な涙が消えるまでは、電波狩りに終わりはない。

02-12-21 校正 2015/4/20

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