社会 

 

 

『大停滞』(タイラー・コーエン)の感想

 

 2015-3-17 校正4/7



日本では、二流の経済学がすぐ話題になる。ピケティなどをすぐ持ち上げるようでは、日本は経済学三流国家だ。主流派が極論を批判して、過剰な期待を削いでいかなくては。そういう立派なのがいないから、私ががんばる羽目になった。世界に通用する経済学者は日本にいない。

『大停滞』(タイラー・コーエン)の感想
 経済の実質成長率がゼロでも、技術革新は起きて、社会は進歩している。それでも資本主義が終わった、というのは短絡的な発想だ、と昨日説明した。さてと、今日は『大停滞』を論じる。

 『大停滞』とは、女を抱いていたい、ではなく、タイラー・コーエンが著した経済本。我々が簡単に利益をあげられるビジネスはなくなった、という2011年の。彼は、その本で、電化製品(テレビ・冷蔵庫・洗濯機)のように容易に儲けられるものがなくなった。インターネットは無償なことが多い。収益はあっても、ソフトは複製するだけで生産できるから、大勢が儲からない。アメリカの医療は先進的だが、効果は低く、長寿になってないし、皆が健康でもない。さほど生活の質をあげてない、と訴えた。

 

 私は貧乏なので直接、訳本を読めないから。ネットの解説を読んでそう理解した。当時、話題になった頃には、あまりたいした本ではないと思った、と記憶する。

 あの資本主義終焉者たちが問題にしたのはこの本で、技術革新がすぐに儲けにつながらなくなった、という箇所だった。

 

家電の三種の神器は、家庭に大型の機械を持ち込んだ。洗濯機は労働を減らして効果が大きかった。テレビも新鮮で必需品となった。冷蔵庫も一家に一台必要だった。それらをどの家庭も大金をはたいて買った。それが家計を押し上げた。それが経済全体を押し上げ、成長させた、と彼らは強調した。

 

 今は、新技術の製品は、そんなに経済効果が大きなものはない。GNPの増大に寄与するものはない。新しい技術が即、巨大な経済市場になり、GDPを押し上げるものはない、と彼らはいっていた。

 

それでもって、経済成長はさらに鈍化してゆく、という根拠にしていた。本当だろうか?

 現在、大きな市場が見込める新規産業はあるか? 
 これがないと、GDPは大きく上がらない。新しい技術が現れて、成長産業となり、大きな市場を作る。すると、経済全体も成長する。資本主義だろうと、社会主義でも、どこでも経済成長はこれにかかっている。

 

 彼らは資本主義に限定した問題だというが、社会主義でも貨幣経済にすると、同じことが起きる。彼らの論ではどちらも貨幣を使うことを前提にしているから資本主義の終焉は、すなわち社会主義の終焉である。

 話を戻そう。経済成長をもたらすようなインパクトが大きい新技術はあるだろうか?

 

 PCは登場した88年から現在にいたるまで、新しい巨大な市場を開拓した。が、今は、もう飽和状態。PCゲーム市場も、任天堂などが勃興したが、ピークをすぎた。携帯電話は新しい市場で賑わっている。

 資本主義終焉者がいう。そんな生活の必需品となるような新しい道具が登場することは今後期待しにくい。それでもって、資本主義は20世紀ほどに今後、成長しない。それで、資本主義が終焉だ、という論陣を張る。

 彼ら悲観者は、新しい市場がもうない、という立場のようだ。実際はどうか? そんなに経済を向上させる未来技術や新製品はないのか?

ロボット

 この経済効果は莫大だ。家庭に1台の30-50万円のロボットが入る時代はまもなくくるだろう。3台でも必要だろう。これは、家電の三種の神器と自動車ほどに匹敵する市場になりうる。これだけでも、家計は倍になる可能性を秘めている。


宇宙旅行

  これも、大きいかもしれない。しかし、実際は海外が宇宙にかわるだけで、旅行費自体が増えない。旅行費用自体は低く押さえられるだろう。大きな市場は生まれない。しかし、そのインフラは莫大な予算がつぎ込まれる。宇宙までゆくロケットは、自動車・飛行機より高価である。これもまた成長産業だ。

 

遺伝子産業

 これも大きい。しかし、医療費は高止まりで、限界近いから、市場規模は大きくならない。質だけがあがる。

 

自動車

 台数は増えても、標準化(コモディティー化)するから、やがて単価は下がる。しかし、アフリカや南米、イスラム諸国で、需要が高まる。人口も増加する。今後、40-50年は生産台数はあがり調子だ。

 

霊との交信機

 未来を考えるから、このくらいはあってよいだろう。しかし、ネット電話程度の価値しかなく、既存のテレビに小さな電子部品をつけて、できるだろうから、大きな市場にはならない。


生体監視装置

 これは本人の状態をすべて記録しておく装置。あらゆる思考も記録されるから、日記をつける手間もなくなる。これはせいぜい10万円。

 

 新産業のまとめ
 ロボットと宇宙旅行が大きい。その他は、PCゲーム程度の市場にしかならない。機械製品が来て、電子製品がやってくる。それが今後、さらに複雑化しても、単品としては高くて10万円くらいにしかならない。1台数百万円の車にかなわない。

 今後、大きく人類の生活は向上しても、それを支える個々の製品が小さな市場をもたらすとしても、新しい大市場になるのは少ない。当面は、それで経済成長は期待できる。

 

 現在は携帯の電子製品が家庭に入り込む。それが世界経済を牽引している。しかし、いかんせん市場規模が小さいのだ。これでは、先進国の経済が大きく伸びない。ロボットが生産されるようになると、状況は変わる。経済はのぼり調子となるだろう。それまでは成長率が低いことを我慢するしかないようだ。

 彼らが言うこと、今後、新技術・製品が大きな経済成長要因にならない、はさほど的外れでなかった。しかし、ロボットの影響を彼らは過小評価している。


 さて、ここまでみてきて、わかっただろうか?

 人類は技術革新をたえまなく行う。生活の質はどんどんあがる。未来には、新しい技術が夢のようなことを実現してくれる。いまや人々の創造力は、20世紀初頭の何十倍も社会を豊かにする。そんなに人類は成長速度を大きくあげた。

 成長はアイデアの数にかかっている。それは特許の数で表される。特許出願数はいまや過去最大だろう。おそらく。

 しかし、経済学の手にかかると、それでも人類はゼロ成長、という。まるで狐につままれたような話だ。ここまで、読んで、何がおかしいのかわかっただろう。資本主義か? それとも経済学者の見方か?

 資本主義は問題ない。自由経済によって、社会は順調に発展している。それ自体に陰りはみられない。私は、貨幣を指標とする態度(経済学の分析法)が新しい現実についてきていない、と思う。

 資本主義社会は薔薇色の未来が待っている。が、経済学でみると、成長が止まっているように映る。つまり、問題は現行制度ではなく、"経済(マネー)"による価値判断にある。

 彼ら資本主義終焉論者は、セクハラが止まらないのは日本社会制度のせいだ、という。私は、セクハラ部長のせいだ、と言いたい。

 

 社会が成長を止めたわけではない。経済学でそう見えるだけだ。悪いのは、経済的視点だ。資本主義体制ではない。

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