短編 リストラと電波犯罪者


リストラと電波犯罪者

電波犯罪摘発後、とある企業の人事部がリストラ対象を従業員リストから探している。

人事部室の会話

課長「電波犯罪者の割合は、平均2〜3割だってよ。」

 

係長「そんなにたくさんいるんですか。わが社の2割といったら大変な数になりますよ。そんなにいないと思いますよ。」

 

課長「もしいれば怖いよな。お前がやっているってこともありえるんだよな。」

係長「えっ、私ですか。そっ、そんな。やるわけないじゃないですか。私はまじめに会社で働いてもう6年。社内結婚の時はひがまれましたけど、課長は妻も後存知のはず。家で電波飛ばすなんて、疑わないでくださいよ。」

課長「君を信頼しているよ。しかし、彼女は美人で愛嬌があったなあ。おっとこれはセクハラじゃないよな。」

突然、部長が部屋に響き渡るような大声を出す。「おっいいことを思いついた。」

みなが部長を振り向く。

部長「リストラは、そいつらでいこうよ。電波犯罪といったら、万引きよりかなり重い罪だ。という事はそれを理由に解雇すれば、反論もできない。不満も出ない。まぁ、実際やるとなると、懲戒解雇だから、再就職先の斡旋も必要がない。退職金もカットできる。いいアイデアだと思わないか?」

課長「部長。それは社員の私生活を疑うということですよ。」

部長「もしもの話だけどね。でも、まじめな話なんだ。もしやっていたら、雇い続けることができると思うか?」

課長「我が社では、大きな犯罪を犯したら辞めることになっています。」

部長「違うよ。電波犯罪を隠れてやっているやつを、雇えるかと言っているんだ。」

課長「それは難しいと思います。」

部長「そうだろう。会社がその社員の犯行を知りつつ雇っていたら、世間が納得しない。会社がパッシングを受ける。会社の業務に差し支えるんだ。合法だよ。わかるだろう。今は役員といえども、経営責任が問われる時代なんだ。企業経営者は犯罪者を雇えないのだよ。」

課長「前科者なら、わが社でも雇ってますよ。」

部長「それは軽犯罪法違反だろ。スピードの出しすぎとか。電波犯罪は、凶悪犯だよ。しかも長期にわたる犯罪だ。そんな過失とわけが違うよ。」

係長「私は雇わないほうがいいと思います。もしライバル企業にでも内部告発でもされたらたいへんです。噂が立てば、営業がやりにくくなります。」

部長「企業不祥事は芽の段階で摘み取る。それが鉄則だからな。」

課長「ですが、電波犯罪者なんてどうやってみつけるのですか?私達が彼らに尋ねるのですか。それとも、社員の家まで調べにゆくのですか。それは無理でしょう。」

部長「そこなんだよ。でも、潜在的なものだからといって、何も調べず放置しておくのはまずいと思うんだ。後で、大きな問題となってからでは遅い。何かいい方法がないかな。」

係長「そういえば、写真から(犯罪を)やっていたかどうかわかるってきいたことがあるよ。」

部長「写真をみせれば、犯人がわかるのか?」

係長「そう書いてありました。」

部長「本当か、ちゃんと調べてくれ。」

課長「まあ探してみましょう。」

翌日

係長「いいところをみつけましたよ。やっぱり探せばみつかるものですね。もうめざとくビジネスにしているとは、」

と、インターネットのサイトを開く。

「電波犯罪者の調査をします。
リストラにお悩みの人事部の皆さん、誰かから攻撃されているが証拠がなくて困っているという方、私共で、調査いたします。
調べたい人の全身写真、家の写真をできるだけたくさん持参してください。一枚、二千円で、電波犯罪者かどうか、鑑定します。秘密は厳守いたします。
電波調査研究所、インタラクティブ」

部長「俺の勘は当たるんだよ。ほれみろ。だんだん俺の言うとおりの展開になってきた。」

課長「本当にあるんですね。1枚2000円は高くないですかね。」

係長「2000円でリストラできれば社長も泣いて喜ぶよ。」

部長「そうだな。」

課長「でも、私どもが社員の電波犯罪をしているかどうか専門会社に調査を依頼したとなれば、問題になりませんか。」

部長「われわれはいつも社員の身元を調べてきたではないか。ばれたことはあるか?」

課長「それはありませんが。」

部長「なら大丈夫だろう。ここは興信所よりかなり安いよ。いいよ。いいよ。ここに決めたよ。係長あとは、頼んだよ。じゃ、いいね。全員の写真を用意して。ここに依頼するよ。800人分だから。」

課長「よしたほうがいいですよ。まとなも会社かもわかりませんし。」

部長「じゃあ、とりあえず、数人分頼んで、どのくらい確実に犯人がわかるか、きいてきてよ。それなら問題ないよな。」

課長「まぁそうですが。でも、こんなことをしたらやばいと忠告しておきますよ。」

部長「いいんだ。課長、いやに反対するね。まさか、君。やっているのじゃないだろうね。」

課長は形相を変えて、「私はやっていません。ただこんなことをして、ばれたら問題になるなと思ったからで。」

部長「いまのは冗談だよ。社員の身元調査はどこでもやっているよ。そのオプションと思えばいいんだ。社長の了承はとっておくよ。」

課長「私は反対します。部長がそこまでおっしゃるなら、従いますが・・・。じゃあ、私がやりましょう。」

部長、何か課長の態度が怪しいことに気づく。

「あっ課長、君は今週の報告が遅れているよ。そっちを急いでよ。係長に任すから。係長、任したよ。」

係長「はい。」

係長は、数人の社員の写真をもってその調査会社に調査を依頼した。鑑定はよくできていた。すぐに電波犯罪をしている可能性が高い人物が出てきた。部長は、信頼できる調査会社と判断して、全社員の写真を調べてもらうことにした。そして、それを直接、部長に報告するように言った。

 そして、一週間後、結果が出てきた。課長はやはりクロだった。かくして、リストラ人員は決まった。会社は退職金などかなりカットでき、リストラを安く実現させ、経営が傾くのを防いだ。

03-03-05 03-8-22 校正 2015/4/20

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