漫才 和解


ネタ完成度1パーセント


 犬ちゃん
 猫ちゃん

 犬、はじめまして、犬だーよ。

 猫、How do you do? 猫でーす。

 犬猫、二人はいつも一緒、ワンエンドキャットでーす。

 犬、最近、暑いね。

 猫、あまりに暑いから、近くにすずしそうな川あったから、思わずシャツ1枚パンツいっちょで、飛び込んだよ。道頓堀。飛び込む時に、何と言ったと思う?

 犬。阪神優勝バンザーイだろ。

 猫、当たり。爽快だったよ。

 犬、あっそうかい。君も若いねえ。

 猫、わかい、といえば、もめごとが起こった時に仲直りするのも、和解。

 犬、なるなる。(なる=なるほどの略)

 猫、この前、ついに、俺に電波飛ばしてくる電波野郎をみつけて、警察にしょっぴいた。その男、代理人をよこして、刑事告訴だけは許してください。和解に応じてくれませんか、って言ってきた。

 犬、お前、芸人のくせに何か被害でも受けてたのか?

 猫、俺は盗聴され、私生活がネットにばらされたし、頭痛もひどかったんだよ。

 犬、お前の私生活って、あれか。麻薬に、女買いに、過去の女遊びか。いやいや、俺じゃないよ。

 猫、わかってるって。三軒隣に盗聴しているやつがいて、そいつが噂をばらまいたんだ。で、ようやくそいつの出している電波をスペアナでとらえて、警察につき出してやったのさ。

 犬、スペアナって何女子アナのことか? 女子アナは金持ちをかぎわける鼻がいいからな。電犯もわかるのか? 女子アナすげえ。

 猫、ちがうちがう。スペクトルアナライザーのこと。電波の周波数をとらえることができる。電波を検出して、証拠をつかんだ。で、警察に告発してやったのさ。

 犬、お前、みかけによらずやるじゃん。

 猫、それで警察が捕まえた。すると、その男の弁護士が家にきて、刑事告訴されたら、会社をクビにされる。ここは一つ、和解で決着させてくれませんか、と頼みにきた。

 犬、電犯のくせに、図々しいな。不法電波飛ばすやつには、ムショがお似合いだよ。断れ断れ。

 猫、金しだいだな。



 犬(弁護士役)、にやっ。で、おいくらほどだと許していただけるのでしょうか。

 猫、いくら出せる?

 犬、当方としまして、これでいかがでしょうか?(電卓を押す動作)

 猫、はぁー。あの男は、3年も俺に電波浴びせて、盗聴して、俺はその間ずっと頭痛で仕事もできず、ろれつも回らず、どもりがちな声になり、それでも耐えていたんだよ。たったそれっぽっちか。応じる気にはならんね。

 犬、そこをなんとか。では、慰謝料を含めて、これはどうでしょうか?(電卓を押す動作)

 猫、(その電卓を一瞥する。)ふん。せこい金額にしやがって。精神的慰謝料というものは1年で2百万円だろ。三年で六百万円だ。そんなはした金で応じられると思うな。俺はカネなんてほしくないんだ。犯罪者を罰すればそれで十分なんだよ。

 犬、電波浴びせられてつらい目にあわしてしまったことは、本人も謝る気持ちがございます。お怒りを静めてくださいませんか。刑事告訴にしないと言う条件でなら、出せる金額です。刑事告訴にするならば、手に入るお金も減ります。では、この金額ではいかがでしょうか。

 猫、少し満足の顔。まぁな。罰すればいいってものではないからな。でも、あまりけちけちするなよ。

 犬、あの男には貯金がなくて、これしか出せないのです。これが限度です。

 猫、電卓をいじくり、数字を変える動作をする。借金してでも、払えや。それが誠意ってもんだろ。あの今住んでいる家を売れよ。

 犬、表情が厳しくなる。あの男は、妻子がいまして、子供は今病気入院中で、来月には手術しなくてはいけません。そこをお察ししていただければ。

 猫、はぁ? 泣き落としか。今、妻子がいると言ったな。じゃ、妻も共犯ではないか。

 犬、びくっとする。いえ、けっしてそんなことはございません。妻も夫が電波飛ばしたことは警察がくるまでわかりませんでした。

 猫、嘘はつくなよ。テープで記録してあるんだよ。嘘をついて、交渉を有利に進めるようなやつとは俺は交渉しないからな。

 犬、わかりました。嘘なんかついていません。妻がそう申したのです。では、あの男は近所の電波犯罪者を知っていると言います。それをすべて証言するということで、

 猫、警察で事情聴取しても、そんなこと証言するだろう。交渉の取引材料にはならないよ。

 犬、いえいえ、あの男は近所の電波犯罪者の家にあがりこんで、一緒に飛ばしたこともあるのです。あの男がしゃべれば、あなたはたくさんの犯人を捕まえることができます。そこからたくさん被害補償をとれますよ。悪い条件ではないとは思いますが。

 猫、俺に言わずに、警察に言えよ。

 犬、警察は捜査情報を被害者であるあなたにも黙っていますよ。告発するまではね。それが手に入るのです。あの男は証言すると言ってます。電波飛ばしていた中には、お金持ちもいるそうです。

 猫、それは誰だ?

 犬、それは言えません。和解に応じていただけるならば、お教えできますが。

 猫、条件はそれだけか?

 犬、はい。

 猫、じゃあな、俺の過去をばらされた慰謝料を含めて、600万。それで手を打とう。よし。安いよ。

 犬、私共といたしましては、依頼人が300万円までしか用意できないのですが。

 猫、刑事告訴したら、会社を首になるんだってな。そしたら、退職金も入るだろ。家も売ればお金になるだろ。今、慌てて、お金のないやつと和解に応じる必要はないよな。

 犬、仕方ありません。ここまで(電卓を打つ動作)払えますが。

 猫、ローン組む気になったか。当然だな。猫、刑事告訴になったら、会社を首になると言ったな。それなら退職金もパーだろ。退職金なくなることを思えば、六百万円なんて、安いものよ。俺もお前たちに損をさせる気はないよ。

 犬、退職金がなくなれば、あの男の収入もなくなります。すると、払うお金も作ることはできません。だから、会社を首にさせないほうが、いいのではないですか。では、もう限界です。これでいかがですか。依頼人の出せる誠意はこれがぎりぎりです。

 猫、ほお。ところでよ。依頼人はいくらまで出せると言ったんだ?

 犬、依頼人には貯金がないのですよ。七百万までしか。あっ

 猫、七百万が限度か。そんなの信用しないよ。限度がどうかではなく、被害に応じた金額を払わせることが大事なことなんだ。ところで、着手金はいくらもらったんだ?

 犬、それはいえません。

 猫、どうせ五十万円以下にはならいなよな。

 犬、それはもちろん。

猫、お前報酬金はいくらだ。着手金に報酬金。合わせてもらえる弁護士はいいよな。高いほどもらえる額はあがるよな。

 犬、はい。確かに。

 猫、お前もたくさんもらえるほうがいいよな。

 犬、いえ、私どもは依頼人の依頼を忠実に実行するのが仕事でして、そんな報酬金で稼ごうなんて、毛頭考えていません。依頼人の権利を守ることが私どもの仕事です。

 猫、報酬金は何パーセントだ。着手金に、和解金の手数料が決まっているだろう。

 犬、何度も言うように、そんな依頼人の権利を損ねるようなことはできません。

 猫、じゃあ、和解金が一定額以内なら、報酬金が上がるのか?

 犬、そんなことはありません。報酬金は和解金の一定比率です。

 猫、じゃあ、和解の金額をつりあげようよ。お前も儲かるし、

 犬、それは駄目です。依頼人あってのわれわれです。

 猫、といつつ、和解金をだんだんあげているくせに。

 犬、えっ?そう見えますか。それは錯覚です。

 猫、わかったわかった。限界ぎりぎりで行こう。俺の精神的苦痛はそんなはした金では治らないがね。家売ればいいじゃん。

ところで、弁護士稼業は、長くやればやるほどもうけかるから、交渉を長引かせたいんだろ。それで、和解を長引かせて、ゆっくり譲歩して、最後には最高金額につりあげようという魂胆だろう。

 犬、びくっとする。(小さな声で「図星だ。」)そんなことはありません。和解を早く決着させたいと考えています。

 猫、まぁおれは早く決着しようが、遅くなろうが、関係ないがな。お前は、自給五千円くらいとるのだろ。こうして、話している間にも、五千円をやつからとってゆく。

 犬、そんな安くはございません。そんな私のことよりも和解を。

 猫、しかし、和解が即決したら、困るだろう?

 犬、もしかしてあなた弁護士の知りあいがいるのでは?

 猫、訴訟になっても、弁護士は訴訟費用で最低でも五十万円とれるからいいよな。それプラス成功報酬だろう。いいよなあ。訴訟にしようか。

 犬、いえいえ、そんな無茶な。訴訟しないための和解ですから。

 猫、訴訟になったら稼げるんだろう。

 犬、それはそうですが。

 猫、長々と交渉するよ。君達、なかなか妥当な被害補償金を出してくれないから。しかし、稼ぐならもっと簡単にしろよ。お前とは話す気はないよ。びしっと決めろよ。

 犬、わかりました。そこまでおっしゃなら、私にも覚悟があります。

 猫、なんだ。

 犬、実は、この仕事、割が合わないんです。あの貧乏男、弁護士費用もけちけちで、私どもも最低限の料金で、奉仕させて頂いています。決めました。早く終わらせたいので、報酬金で稼ぎます。

 猫、そうだよ。それが1番だよ。弁護士のお前があの男を説得しろよ。俺は慰謝料で被害が報いられる。お前は報酬金で稼ぐ。自宅を売らせればいいよ。犯罪者ならば、近所の噂になったらどうせもう同じ場所に住めない。自宅は売ることになるよ。

 犬、そうですね。自宅を売らせます。(初めからの予定ですがね。)小声で

 猫、会社も辞めさせろよ。もうばれるのは時間の問題だから、退職金の入るうちに会社をやめたほうがいいよと。

 犬、そうですね。会社も今のうちにやめさせて退職金をとらせます。(計画どおりうしうし。)小声で。

 猫、それで、八百万でどうかな。

 犬、いえいえ、それだと報酬金が少ない。退職金もあるし、自宅を売った金もあるから、1000万にしましょう。

 猫、おっいいねえ。

 犬、後は私に任せてください。

 猫、てな具合によ。弁護士が一千万円にしてくれた。

 犬、よかったな。もう電波飛ばされなくてよ。貯金もできてよ。

 猫、話のわかる弁護士でよかったよ。


 犬猫、ありがとうございました。

 03-9-9 校正 2015/4/20

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